No.82 家賃を上げたい気持ちはあっても・・・

「家賃上昇」報道の一方で、賃貸オーナーが直面する現実

 近年、「家賃が上昇している」という報道が相次いでいます。不動産情報サイトでも、首都圏・地方主要都市を中心に新築物件の家賃が過去最高を更新したという見出しが目立ちます。この情報をどのように受け止めるべきでしょうか。

新築物件の賃料は上昇傾向に

 建築資材の高騰や職人の人件費上昇が続く中、新築物件の建設コストが大きく上がっているのは事実です。国土交通省の「住宅着工統計」によると、2024年の賃貸住宅の建築単価は、コロナ前の2019年に比べて約25%上昇しています。鉄骨造・鉄筋コンクリート造では、地域によって30%を超えるケースも見られます。

 こうしたコスト上昇を背景に、新築物件では賃料を引き上げざるを得ない状況が続いており、その結果、賃貸情報サイト上の「平均家賃」も上昇しているように見えやすい構造になっています。

既存物件オーナーのコスト環境

 他方で、賃貸オーナーを取り巻く環境も決して楽なものではありません。光熱費や固定資産税、修繕費(資材費・人件費)の上昇に加え、所得税、社会保険料の負担も増しているからです。さらに日々の生活費も膨らんでおり、家賃を少しでも上げたいと感じるのは自然なことでしょう。

値上げできるかどうかは別の課題

 ただし、実際に家賃を引き上げられるかどうかは、また別の問題です。その背景として大きいのが、入居者の支払い能力が伸び悩んでいる点です。賃貸需要の中心である20~40代の実質賃金は、厚生労働省の毎月勤労統計によると、2024年の実質賃金指数は2015年を100とした場合で、96.3とむしろ低下しています。名目賃金は増えていても、物価上昇や税・社会保険料負担の増加により、可処分所得は伸びにくい状況が続いています。

家賃負担率はもう限界

 加えて、単身世帯や若年世帯の「家賃負担率(可処分所得に占める家賃割合)」はすでに高水準です。総務省「家計調査」では、単身勤労者の平均可処分所得はおよそ月21万円、家賃支出は6万円前後で、負担率は約28%。金融機関が住宅ローン審査で目安とする「30%基準」に近く、これ以上の賃料上昇を受け入れにくい層が多いのが実情です。

「家賃上昇トレンド」は全物件に当てはまるわけではない

 つまり、「家賃上昇トレンド」は、新築や高仕様物件、あるいは市場で希少性の高い物件に限られるといえます。築年数が経過した物件や、立地面で競争力が弱いエリアでは、依然として横ばい、もしくは下落傾向が続いています。

 実際に、(株)エイブルの7大都市における実成約家賃(㎡単価)を2019年と2024年で比較すると、新築マンションは約12%上昇の一方、築10年以上の物件では7%にとどまっています。地方では、マイナスとなっている地域も見られます。

自身の物件に合った判断軸を持つ

 こうした環境下で大切なのは、「自分の物件が家賃調整を検討できる条件にあるか」を冷静に見極める視点です。駅近で交通利便性が高い物件や、築浅・リノベーション済み物件であれば、入居者像を意識しながら家賃を見直す余地があります。

 一方で、郊外立地や築年数の古い物件では、無理に家賃を引き上げるよりも、設備更新や共用部の改善などによって住み心地を高め、結果として稼働率を維持・向上させる方針も選択肢になります。

 募集事例の確認は参考になりますが、募集家賃と成約家賃には差が生じることもあります。直近の成約動向も踏まえながら、仲介会社と相談して水準を見極めることが大切です。

ご注意

※本記事は2026年2月23日時点の情報をもとに作成しています。