No.93 相続人のいない不動産オーナーに必要な備え

「死後事務委任契約」とは? そのメリットと注意点

 少子高齢化と単身世帯の増加を背景に、「相続人がいない、手続きを任せにくい」という状況にある不動産オーナーが増えています。そんな中、注目されているのが死後事務委任契約です。その仕組みと活用上のポイントを整理します。

死後事務委任契約の法的な位置づけ

 死後事務委任契約とは、本人の死亡後に発生する各種手続きを、生前に特定の第三者へ託しておく仕組みです。生前に受託者と契約を締結し、死亡を条件として実務的・身辺的な事務処理を担ってもらいます。報酬や費用の支払い方法についても契約で定めておきます。

 遺言書のように財産の分配を決めるものではなく、民法上の委任契約に基づく私的な契約である点が特徴です。

どのような人に有効か

 相続人がいない方のほか、相続人が遠方に居住している場合や、親族に負担をかけたくないと考える方にとって有効な手段です。賃貸経営を行っている場合、死亡後も入居者対応や契約関係が残るため、誰がどこまで対応するのかを生前に明確にしておくことは重要です。

契約がない場合に起こり得ること

 死後事務委任契約がないまま亡くなった場合、直ちに家賃収入が止まるわけではありませんが、口座の凍結や意思決定者の不在により、資金管理や物件運営に支障が生じる可能性があります。修繕対応や入居者対応が遅れるなど、管理の空白が生まれるおそれもあります。

何を依頼できるのか

 死後事務委任で依頼できる主な内容は、以下のような事務です。

  • 死亡届の提出
  • 葬儀、火葬、納骨の手配
  • 医療費や施設費用の精算
  • 賃貸物件に関する関係者への連絡
  • 各種契約の解約手続き
  • 家財の整理 など

 一方で、不動産の売却や相続財産の分配といった行為は対象外であり、これらは遺言や遺言執行者によって行われる領域となります。

メリットと留意点

 最大のメリットは、死亡後の混乱を抑え、周囲への負担を軽減できる点です。一方で、受託者の対応力や契約内容によってはトラブルが生じる可能性もあります。業務範囲や報酬、費用負担については、あらかじめ明確にしておきましょう。

死亡の連絡体制をどう確保するか

 契約を機能させるには、死亡の事実が受託者へ確実に伝わる仕組みが欠かせません。見守りサービスや管理会社との連携、緊急連絡先への登録など、複数の連絡経路を確保し、契約内容も定期的に見直すようにすると良いでしょう。

 近年では、生命保険と組み合わせたサービスも一部で提供され始めています。死亡保険金の請求を契機に受託者へ連絡が行われ、費用の支払いまで一体的に対応できる仕組みであり、今後の広がりが注目されます。

受託者選びのポイント

 受託者には、信頼性と継続性が求められます。そのため近年では、司法書士や行政書士などの専門家、あるいは専門法人へ依頼するケースも増えています。契約書において業務範囲や費用を明確にしておくことが不可欠です。

最後に

 死後事務委任契約だけでは不動産の承継や処分まで対応することはできません。賃貸経営をどのように承継・整理するのかという視点では、遺言や信託と組み合わせた検討が現実的です。

 早期の準備は、本人の意思を確実に反映させるだけでなく、入居者や関係者への影響を抑えることにもつながります。

ご注意

※本記事は2026年5月18日時点で作成しています。